キヤマノアキヤ~1軒から始まるまちづくり・まちおこし~(2016)

都市・まちづくりコンクール 奨励賞 受賞 小野将司

計画の要旨

基山町の新たなまちづくり案として、空き家を活用して基山町を変えていくことはできないかと考えた。まちの活性化には基山町に人を呼び込み、基山町でお金を消費してもらわなければならない。

筆者は空き家のうちの1軒をリノベーションすることにした。この空き家を数日から数週間ほどの利用を目安としたゲストハウスとして計画する。ゲストハウスでは多くの人が入れ替わりでこの家に入居し基山町に住んでもらうことで基山町のことを知らせることができ、基山町での消費も促せる。

これは将来的な「基山町ファン」を作るためでもある。どの町でもほとんどの場合、商店街の衰退や中心市街地の衰退が主な原因である。つまり、ここを活性化させることで、町自体も活性化していく。商店街の空き店舗が増える理由は、売上が伸びずに収益にならないことがほとんどであると思われる。まずは「シャッター店」となっている空き店舗をなくし、商店街を活発に見せることも重要である。そのためにはこの商店街で起業・創業する人が必要である。

しかし必要だからとすぐに見つかるわけではない。まずはこの商業区域をエリアマネジメントする必要がある。商店街やその付近が整備されることで、新たな顧客を呼び込むことができる。ここで呼び込んだ顧客を継続的に商店街に頻繁に出入りさせることが、起業・創業の機運につながる。

商店街の活性化の前提として、もう一つ筆者の求めるものが、それは町外からの顧客による消費である。そのために商店街の活性化に話題を作らなければならない。話題性をつかむにはこの商店街独自の、そして個性的な試みが必要なのではないだろうか。筆者は商店街と人々の生活が一体となって日々を過ごせるような、「商住一体」となったまちづくりを目指す。

筆者の考える提案の1つ目として、商店街に専用の受付を作る。居住者は所定の用紙にオーダーを記入し、朝、出社・登校する前にそれを受付まで持っていく。このオーダーには、例えば「洗濯」「夜食(弁当)の準備」「庭の掃除」などがあり、「洗濯」であれば洗濯物も一緒に受付まで持っていく。居住者の日常生活の支援を商店街が事業として行う提案である。

2つ目では、基山町でリノベーションされた空き家の居住者に新たなサービスを付属する。それは、基山町の商店街や飲食店を利用される場合、定価の1割から2割ほど安く提供するというものである。このサービスは居住者にとってもメリットがあり、居住者に基山町内で消費させることで基山町側にもメリットがあるというものである。

対象の物件

対象となる空き家は、消防格納庫として最近まで使用されていた。場所は基山駅から歩いて3分程度である。この空き家の近傍にはスーパーマーケット、飲食店や商店街、徒歩圏内に最近改修された図書館などの公共施設もあり、住むには不便のない場所である。

想定する居住者は外国人とする。もちろん日本人が居住しても構わないものであるが、外国人2名から4名を対象としたゲストハウスを念頭においた賃貸住宅として設計する。日本と海外での賃貸住宅の違いは、日本では居住した後に家具や家電を自分で調達するが、海外の賃貸住宅では家具付きである場合が多く見られる。そこでこの物件でも家具付きで貸し出すことにした。こうすることで居住者が入居後すぐに快適に生活することができる。

設計の詳細は、上掲別紙に示す。なおこのプロジェクトは、佐賀県三養基郡基山町による、移住体験リノベモデル事業の一環として取り組んだものであり、現在施工が実施されている。

この取り組みは、2017年2月25日付、佐賀新聞で紹介されました。

このプロジェクトは、佐賀県三養基郡基山町・移住体験リノベモデル事業の一環として取り組みました。

研究の背景

基山町は佐賀県東部に位置し、人口約17,400人程度の町である。選定エリアは中心部の基山駅周辺であるが、ここの空き家率は26%程度と高く、空き地の駐車場化も進んでおり、人口の流出や若者の減少が止まらない。かつては賑わっていたモール商店街も最近ではひっそりとしている。基山町は福岡市や佐賀市、久留米市のベッドタウンになる場所であり、福岡市へは人口の10%以上が通勤・通学している。博多駅から基山駅まではJR快速電車でわずか23分であり、立地としては良好な場所である。

また高齢世帯などの諸事情により居住可能な空き家も増加しているため、居住可能な空き家への居住者を呼び寄せることも課題となっている。基山町としてもこの課題へ取り組むべく空き家等の適正管理や利活用の促進等の対策を総合検討するための「基山町空家等対策協議会」を設置している。

先行の取り組み

現在基山町が行っている「基山町空家等対策協議会」以外にも様々な取り組みを行っている。一昨年から基山町を、感性を育む土壌として耕すことをミッションとして各界からの著名人を誘致しており、他にも若い人材のまちづくりへの参画のため各大学のゼミプログラムを共有し大学生とのコラボレーションでまちづくりを行っている。

例えば基山フューチャーセンターラボは、未来思考で対話し、変化を起こして行くための場であり、基山町の「まち・ひと・しごと」に繋げるための空間として地域間交流のためや地域課題の会議のためなどに貸し出している。

研究の目的

基山町では様々な取り組みを行っている、まだ町の活性化には繋がっていないように思える。それは町の中だけの取り組みであるため、町外から来た人へ対しての取り組みが遅れているからではないかと考える。人を呼び込んでも、その後は何もしないのであれば基山町に来た人は離れてしまうと思われる。

そこで、商住一体 リノベーションした空き家を「拠(よりどころ)」とした新しいまちづくりを提案し、基山町の活性化・まちづくりを考えることを本研究の目的とする。


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