木材を用いた落ち着きのある部屋の提案[2018]

日本建築仕上学会 卒業設計奨励賞 推薦(伊藤 綾)

1.はじめに

筆者は、株式会社三好不動産(福岡市中央区)から依頼された実現を前提とする戸建賃貸住宅のリノベーションを課題として卒業設計に取り組んだ。対象物件である住宅の現状評価から、間取りの変更をほとんど行わないことが最良の選択であると判断し、色彩や材質感、組み合わせなどの仕上材選択のこだわりによってこの住宅の魅力を引き出して、木材を用いた落ち着きのある部屋を提案しようと考えた。
 
対象物件は、百道1丁目貸家(福岡市早良区)であり、2階建てである。家族構成は、父、母、子どもの3人である。団らんの場である居間を明るく落ち着く場にすることで、家族が自然と集まり寛ぐ空間ができると考えている。また子どもをはじめとする家族が木と触れ合い、木に学び、木と生きることが木育である。特別な道具や機会がなくても、木と一緒に暮らすだけで木育となり、豊かな感性と心を養い、想像力を高めることができると考えている。

2.木材と落ち着き

内壁の仕上げとして、木材とコンクリートでは、どちらを好むかという質問に対して、木材を選んだ人が多い。人により感じ方や好みは各々であるが、木材には暖かみがあること、落ち着くということ、一方コンクリートにはかっこいいこと、シンプルということが評価されている。木材を選んだ人があげた最も多い理由が、落ち着くということであった。木材が落ち着くとされる根拠は、大きく分けて3点ある。微生物の活動を抑制する、樹木等が発散する化学物質であるフィトンチッドを有すること、五感が安らぐこと、湿度の調整ができることである。

気持ちを静めることで多くの人は落ち着きを感じる。この感覚は人が五感で感じるものであり、その中でも視覚・触覚・嗅覚を刺激するものである。入居する部屋の決定には、最初の印象が大きく影響するとされる。人に一瞬で落ち着きを感じさせるためには、仕上材の色彩や材質感の印象が重要である。したがって視覚を含めた五感を刺激させることによって、落ち着きが生まれてくると考えられる。また木材は人間とも相性がよいといわれる。歩行感が良く温かさがあり、ストレスを抑える効果があることが日本住宅・木材技術センターで実証されている。

3.リノベーション

1階では玄関から階段に注目が集まる。単調な茶色一色であり、採光窓はあるが明るい場所とはいえないため、明度が高い色を使用した。また2種類の素材を選択し単調にならない意匠とした。

LDKは仕切ることで空間に強弱をつけた。また壁ではなく角材を使用して圧迫感を減らした。また角材と角材の間に板を設置し、角材と角材の前に棚受け金具を取りつけ、その上に板を置いた。さらに角材に折り畳み棚を取りつける提案を行った。

2階では洋室と和室を仕切る壁を取り、引き戸をつけた。客間以外では就寝のみで使用する和室は、普段は締め切られている。畳には癒しの効果があるが、壁を取ると空間とともに畳の匂いが洋室に広がる。通常は開放するが、来客時は閉めてプライバシーを保護し、別々の部屋として使用する。

子ども部屋には無垢材を多く使用し、自然に近づけた。床には傷が目立たないウォルナットを、壁には杉と漆喰を使用した。全面が木材の内壁に囲まれると圧迫感があるため、主要な壁にだけ木材を使用しようと考えた。他に壁が杉と漆喰で床が杉という組み合わせも考えた。2つある物入のうち1つが勉強机となり、可動棚を採用して様々な活用を図る。

4.おわりに

木材は種類が多く、同じ木材でも木目や色等特徴が大きく違う。木材さえ使用すれば落ちつくというわけではなく、逆に落ち着かない空間になる場合がある。木材に限ったことではないが、周囲との調和、組み合わせも熟慮しなければならないと実感した。

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